令和の相続:専門家自らが選んだ「心の平穏」を優先する相続放棄という決断
「相続放棄」と聞くと、多くの方は「争族トラブルに巻き込まれたくない」という防衛的な選択を想像されるかもしれません。
しかし、私が下した相続放棄という選択には、もう一つの意味がありました。
それは、「最後の親だからこそ、自らの心に区切りをつけ、後悔なく見送るため」という想い。
そして何より、「いまを穏やかに生きていくため」という気持ちを優先したのです。
親族との話し合いに参加すべきか、自問した結果、私は「その場に着かない」という決断に至りました。
長年、シニアライフ・相続アドバイザーとして、相続に関するご相談をお受けしてきました。
今回、自分自身が相続と向き合ったことで、改めて「相続とは何か」を深く考える機会となりました。
もともと相続とは、家督や地位、財産を受け継ぐこと。
「家名を継ぐ」「財産を受け継ぐ」など、形式や物質的な面に目が向きがちです。
ですが現代では、家族や親族との接点が少なくなり、相続もまた“見える範囲”で捉える時代に移りつつあります。
だからこそ私は、「想いを伝える相続」も、今の時代において重要だと感じています。
たとえば――
「こういう事情があって、私はこう思い、このようにしてほしい」
そんなメッセージが残されていたら、「この家に生まれてよかった」と思えるかもしれません。
先に逝くであろう私の想いは、残された人の心の支えとなり、未来を生きる力にもなるのです。
――あなたの伝える言葉は、かつてあなたが受け取りたかった言葉ではありませんか?